意 見 書

 

2006年度 社団法人佐野青年会議所

第41代理事長予定者 勅使川原唯男


1970年原点の旅

空はどこまでも青く澄み、綿菓子のような白い雲がぽっかりと浮び、太陽はジリジリと焼き付け、蝉の声がより一層熱さを感じさせていました。いつも通り、友達と二人で幼稚園の帰り道、田んぼの畦道を歩いていると、小学校のお兄ちゃんたち4、5人が、土手でダンボールのソリ滑りをして遊んでいました。とっても楽しそうだったので、暫く眺めていると、背丈が私の倍もあるお兄ちゃんが寄って来て「一緒にやろうよ!」と言いました。私は嬉しくなって「一度帰ってからまた来る。」と言い残し、急いで家に帰り、母親にこのことを告げました。母親もニコニコしながら「気を付けてね!お兄ちゃんの言うことをよく聞いてね。」と言って送り出してくれました。

戻ってみると、友達は既に来ていて、お兄ちゃんたちは3倍くらいの人数に膨れ上がっていました。6年生もいれば1年生も、更には女の子もいて、みんな泥んこになって、大声で楽しそうにはしゃいでいました。さっき声をかけてくれたお兄ちゃんに「次は君の番だよ」と言われ、つぶれたダンボール箱を手渡されました。私は怖くて滑れないでいると、お兄ちゃんが一緒に滑ってくれました。スリルとスピードが一瞬にして快感に変わり、そしてその膝の上で、温かさとやさしさも感じていました。一度出来てしまうと得意になり、順番を待たずに先に滑ろうとすると、お兄ちゃんに叱られました。この時、割り込みはズルイことで、してはいけないことだと教わりました。

夕方近くまで遊んでいると、お兄ちゃんの「よーし、今日はおしまい!お風呂に行くぞ!!」という号令が掛かりました。「えっ!」と戸惑う私を尻目に、お兄ちゃんたちは集まって何かを相談し始め、そして何人かでお小遣いを出し合っていました。それから自転車の数と二人乗りが出来る人、それ以外の人を瞬時に割り振りましたが、それでも自転車が足りません。すると一人の子が自転車から降りて、別の子に自転車を貸しました。そしてその子は「走って行く!」と笑いながら、楽しそうに走り出しました。それにつられたかのように、みんなも一斉に走り出し、私もお兄ちゃんの自転車の後ろに飛び乗りました。怖くてお兄ちゃんの腰をギュッと掴んでいましたが、お兄ちゃんの大きな背中にすっぽりと隠れ、いつの間にか恐怖心も安心感へと変わり、そよそよと流れる風を全身で感じながら、まるで空を飛んでいるような、心地よい気分になりました。

もちろん、子どもたちだけで銭湯に行くのは初めてで、まだ幼い私にしたら、それはもう大冒険そのもの、私はわくわくどきどきしながら、少し大人になった気分でした。銭湯は貸し切ったかのようで、誰かが言い出したわけでも無く、すぐに水泳大会が始まり、泳げない私は、泳ぎと潜りを手取り足取り教えてもらい、何度もお湯を飲みながら必死に練習した結果、二つの浴槽をつなぐ50センチ四方の穴をくぐる事が出来るようになりました。その時みんなは、自分の事のように喜んでくれました。

風呂上りに、銭湯の隣にある果物屋さんで、お兄ちゃんに梨を一つ買って貰いました。どうやって皮をむいて切り分けるのか悩んでいると、「こうやって食べるんだよ」と言ってかぶりついたので、私も同じように真似てかぶりつきました。生れて初めて食べた、丸かじりの梨のみずみずしさと甘さは、今まで食べた果物の全てがかすむくらい、何とも言えない美味しさでした。憧れのお兄ちゃんに、また少し近づけたように思え、何だか誇らしげな気持ちになりました・・・。

 

 

 

つよくやさしい社会を目指して

 私たち青年会議所は『明るい豊かな社会の創造』を目指し、日々活動していますが、この普段無意識に口にしている、明るい豊かな社会とはどんな社会でしょうか。この質問には十人十色の答えがあると思いますが、この答えに正解はありません。ただ共通して言えることは、そこに住む人たちの状態が明るく豊かであるということです。それは、戦後の経済成長と共に追い求めてきた『物の豊かさ』ではなく、『心の豊かさ』がもたらす社会であることに私たちは気付いています。ですから私たち一人ひとりが内面を磨き、地域の人にやさしさと思いやりを持って行動することで、信頼の環がまち中に広がっていきます。

『つよく』とは混沌とした社会でも、自らが価値を高め、さまざまな課題に対して積極的に解決できる、自律したつよさと逞しさを持っていることです。『やさしさ』とは人や環境を中心に考え、思いやりやいたわりを持ち、助け合いの精神があることです。そして自分たちのまちは自分たちでつくるという、自助自律の精神と責任感のある人たちで地域が満ち溢れたなら、必ずや理想である『明るい豊かな社会』となることを確信しています。今こそわれわれ佐野青年会議所は、情熱と志を集め、覚悟を決め理想に向かって一丸となって行動します。

協働のあるまちづくり

 『安佐はひとつ』をスローガンに掲げた40年間の活動も、一市二町の行政区が合併したことで、地域主権に向け新たな一歩を踏み出しました。私たち佐野青年会議所がおこなった住民発議運動により合併協議会が設置され、そのことで新佐野市が誕生しました。しかし合併は一手段であり、行財政の効率化が一歩進んだだけに過ぎません。むしろ大切なのは合併後のまちづくりで、佐野青年会議所の存在意義が問われてきます。そして青年会議所の存在意義は地域の課題に焦点を当て、市民と共に運動し、その課題を解決することだと思います。新佐野市はどんな課題があるのか、行政、市民、NPOそして企業とそれぞれの立場ごとに、現状を検証し把握する必要があります。そしてもし課題があったとしたら、「つよくやさしい」社会の実現のために、解決策を提案したいと思います。この提案は行政、市民、NPO、企業とそれぞれの立場を理解したうえで、相互信頼関係のもと、作られなければならないと考えます。協働の中から生れた提案こそが、地域主権意識そのものだと思います。

 また、近年市民は多種多様な価値観を持っており、市民のニーズも多様化していますが、行政システムが限界に来ている部分もあるため、その多様な市民のニーズに対応しきれなくなっている現状もあります。また、行政も合併直後の新しい仕組み作りと対応に混乱をしている中、いろいろな負担を抱えています。ある部分理解しなければならないところもありますが、こんな時だからこそ市民力を結集し住民自治意識を持つ絶好の機会だと思います。しかしその市民力を生かせる仕組みや、更に、自助自律の精神を育むには、協働の仕組みが必要となってきます。第三のサービス提供者であるNPOや市民活動団体を活性化するためにも協働のプラットホームを作成し、同時にそのプラットホームを活用する環境も整備する必要があります。

協働のある共育の実践

 かつての高度経済成長の副産物として、都市化や核家族化が進み、価値観の変化と共に少子化が加速しています。この現状では、学校や家庭内だけの教育に限界があり、地域の関わりが必要とされています。それは学校・家庭・地域・企業が連携し、社会全体で子どもを育むと同時に、家庭を含む地域の教育力を活性化する必要があると考えます。

また、いじめ、校内暴力、虐待や家庭内暴力、青少年犯罪の凶悪化やフリーターやニートの増加、引きこもりなどに象徴されるような特異な現状があります。痛ましい事件がある度に、心の教育の必要性が叫ばれています。しかし本当のところ、何をどうすればいいのか、大人たちも全く方向性を見失っているように思えます。今こそ、われわれはできることから始めなければいけません。子どもたちにとって今必要なのは、知的能力を育む教育とともに、「つよくやさしい」人を育成するための道徳教育です。そこで、中学2年生を対象にした立志式が各地で行われていますが、形式だけの立志式ではなく、本来の目的に添った立志式を提案することで、道徳教育の重要な一助にしようと考えます。また、人格形成のうえで重要となる中学生の多感な時期に、志を表明する機会を持つことは、子どもたちの責任感を育むとともに、人生の目標と生きがいを発見できると思います。また立志式は、親が子育てを見直し、地域社会との関わりを深めるきっかけともなります。特に父親の参画が必要だと考えています。一般に父親は、子どもが中学生になると母親まかせになりがちで、学校との関わりが少なくなる傾向があるからです。

人は志を立てることによって、素晴らしい人生を手に入れ、自己実現と社会への貢献という、夢のある喜びに満ちた生き方ができるのです。私はそんな瞳が輝く人生を子どもたちに贈りたいのです。

つよいJAYCEEの資質

青年会議所の会員は、20歳から40歳迄の青年経済人の集まりです。そしてその会員は、様々な業種や性格・生活環境の違いから、十人十色の考えを持っています。しかし同じ価値観のもと鋭い感性と熱い志を持ち、『当たり前の事を当たり前』と行動し、『正しいことは正しい』と言えるつよさが必要です。この価値観は、倫理・道徳上の『正しさ』であり、この正しさを武士道の中では仁と義という言葉で表現しています。『仁は人の良心であり義は人の道である』という意味です。そして武士精神が社会の規範であるという武士道の教えから、私たちが学ぶべきつよさとやさしさがリーダーシップ研修にあると思います。

 またJAYCEEは青年経済人であり、ほとんどは地域経済に携わっています。本分は経済活動ですから、JC運動を説得力あるものにするためにも、仕事に望まれる結果を出す必要があります。そして、地域主権社会が求めている経済人とは、地域課題を的確に捉え、最も効果的な社会サービスを戦略的に実現できる、リーダーシップを持った社会起業家だと思います。そして地域課題を新しい価値の創造やそれぞれの事業の革新という観点で捉えることで、自らの事業の社会的価値を高められると考えます。地域の企業が隆盛であれば地域の活性化にも繋がります。いたるところにビジネスチャンスがあるはずです。そのチャンスをつかむ為にも、経営開発研修が必要だと考えます。

つよいJCの組織

 創立以来40年間、佐野青年会議所は公益のために活動をしてきた団体です。その伝統と実績によって創られた名声と信頼をまず自覚しましょう。そして私たちの本質である積極的変化の創造を怠ってはいけません。変化しつづける勇気こそがつよさとなるからです。この佐野青年会議所をより一層つよい組織とするためには三つの要素が必要だと考えます。

 一つは、つよい組織とは、そこに属している会員がつよいという事です。つよさがやさしさや思いやりに立脚しているなら、会員同士の信頼関係を築くことが大切なことと思います。縦割り組織の弊害を考慮すると、横の連携を図る事が必要となり、その仕組みが欠かせません。そして横の連携を取るために、人としての義理と人情とちょっとのやせ我慢が大切で必要です。

一つは、組織には規則があります。その規則は会を運営するのに必要な基準であり秩序ですが、これも時代の変化の中で不具合が生じるケースが多々起こってきます。会員のための規則なら、会員にとってやさしいものに変えていく必要があります。ここで言うやさしさとは、説明責任が果たせるというやさしさです。その時代に沿った規則に変えることで、会員の意欲をサポートします。

 一つは、常に対外に発信をし続けます。JCは公益法人という性格上、社会からも注目されています。社会の規範となるべく、常に自らを律し襟を正さなければいけません。社会に対して発信し、そして実行していくことで、評価もされます。その環境に、自らをおくことで言行一致組織となり、それが精神のつよさとなります。また情報の発信は、会員が活動しやすい環境も創り出します。時折「JCって何?」「JCは知っているけど、何をしているかは知らない?」と言われる事があります。我々はより社会に対しての認知を広め存在を知っていただく必要があります。

 ただ、発信が一方通行なものならば、自己満足で終わってしまいます。それに対するフィードバックを受け入れる謙虚さが必要です。絶えずアンテナを張り巡らし、有益な情報をキャッチし見識を深めると共に、積極的に対外に出て行き情報を集めます。そのために、対外会議等のサポートや出向のセクレタリーサービスの提供をします。

 

 

 

2025年理想の旅

 ごごごごごご、ぐらぐらぐらぐら・・・大きな地震があっても驚かず、そして冷静に昼寝から目を覚ましました。「またあの夢か!」私が幼児期のソリ滑りの夢を何度も見るのは、自分の原点がそこにあることを2005年に気付いてからでした。そして、人と人との繋がりや、そこにあった自然や風の匂いを、子どもたちに体験させたくて多くの仲間たちと一緒にがんばって来ました。

 超小型のマルチメディア無線携帯端末のスイッチをオンにします。寝起きにメールを確認する習慣は昔のJC時代に身に着いたものでした。ただ違うのは、文字からデジタル映像に進歩したことです。その中に先程の地震のメールもありました。「やっぱりマグニチュード5か!」私はこの地震を地震予報で3日前から知っていました。

 市役所からのメーリングリストを開くと『こんにちは。皆さん地震の被害はありませんか?・・・』と、バーチャルの女性がやさしく語りかけます。今ではIT化が進み、全戸にパソコンが設置され、各個人と行政はオンラインで繋がっています。このネットワークが整備されたことで多くの市民は、行政とコンタクトを取ることを毎朝の日課とし、市政に参画できることを楽しんでいます。選挙の時の投票もそうですが、重要な政策案件には住民投票もします。市民の自治意識は高く、まちは活気で溢れています。それと同時に、ありとあらゆる情報が見られるようになりました。100%の情報開示に市民が判断と評価をする仕組みまであります。このことで市民と行政は対等な立場と信頼関係を築き、市民の声が反映された政策がおこなわれています。そして地域のあちらこちらでやさしさが溢れています。

バーチャル市役所も見ることができます。まず驚くのは職員の人数です。合併直後に膨れ上がった職員も、団塊の世代が退職し、地域主権意識も手伝って2005年当時の半分近くまでへり、その代わり、市役所の中に様々な市民活動団体やNPOが事務所を構えています。それらは行政サービスの一部を担っており、市民にとってもなくてはならない存在で、それぞれ立場は違っても、思いやりやいたわりといった気持ちの中で活き活きと活動しています。その活動は独自のサービスを提供していたり、行政の委託事業をおこなっていたり様々で、この傾向はますます増えそうです。最近は、給与や待遇より、やりがいや使命感といったことを重要視し、新卒者の約10%がNPOやNGOに就職する傾向にあります。

懐かしい人からのメールが来ていました。そのメールは井沢さんからで、『こんにちは。今度私は地元地区小学校の校長になりました。・・・・・』相変わらず教育に熱心な方で、先日会った時も「地域教育に関わることが私の生き甲斐で、毎日楽しいよ!」と言っていました。終戦後の教育基本法も変わり、それを期に地方分権の後押しもあって、各地の教育システムも改革し、教育プログラムも変わりました。学校長には、地域市民からの抜擢もあり、地域ぐるみで教師を集めます。このしくみで個性的な学校が増え、そして学区制度も無くなり、学校を自由に選択できるようになりました。選択肢が増えたことで、市民は自己責任がつよくなり、積極的に学校に関わっています。実は私も週に一度、昔から関わっていたスローフード運動がきっかけで、食育の講師として小学校の教壇に立っています。もちろんボランティアです。また、地域教育のプログラムとして、ご近所の農家の人や親たちでNPOを組織し、子どもたちに農業体験を実施するコーディネーターも務めています。地域の人たちは、子どもたちと関わることで活き活きとし、そのことを楽しんでいます。こうした地域の関わりの中、教育環境は作られ、地域ぐるみで子どもたちを育てることによって、子どもたちの安全も守られています。同時にその地域と親たちとの関わりが増えることで、親たちも安心感を持って子育てをしています。また地域の関わりの中から、子育てにとって必要な親力を高めています。共育を推進してきた影響で、ほとんどの家庭で親子関係が良くなり、子どもたちは子どもらしさを取り戻し、子育てをしている親たちも活き活きと子育てを楽しんでいます・・・。

 ・・・「おじいちゃん、大豆と枝豆の違いを教えてー。」孫の声に、無線携帯端末の画面から目を向けると、そこには広い大自然の中、色とりどりの野菜が実る畑の中で、中学生や高校生の号令で、泥んこになって畑で遊ぶ子どもたちの姿がありました。夢ではない現実の世界がありました。あの時と変わらない風のにおいも、ゆっくりと流れています・・・。